「このWebサイト、もう少し“気が利く”相手にならないかな?」――そんな願いはありませんか? 今、Microsoftが打ち出したNLWeb (Natural Language Web)が、私たちの普通のWebサイトをまるでAIアプリのように“話し相手”へ進化させようとしています。しかも、ややこしい独自仕様ではなく、既存のRSSやSchema.orgといったおなじみの構造化データをフル活用していくというのだから興味深いですよね。
本記事では、このNLWebを中心に、同時期に登場しているAnthropicのMCP (Model Context Protocol)やGoogleのAgent2Agent (A2A)といった“AI時代の新プロトコル”をまとめてご紹介します。特に、AIエンジニアとして「ここを押さえておくと応用できそう」「実際に導入してみたくなる」そんな情報をギュッと詰め込みました。ちょっとした疑問やエピソードを交えながらテンポよく話を進めるので、お茶でも飲みながら読んでみてください。
「ウェブを会話可能に」するNLWebとは?
静的ページのままじゃもったいない
Webサイトには膨大な情報が転がっています。しかし、従来のサイトは“人間がページを開いて読む”のが前提。いま流行りの大規模言語モデル(LLM)を使って、サイト内の情報に対して「料理レシピで牛肉を使わない場合の代替食材は?」とか「この製品、在庫ある?」なんて自然言語で尋ねても、サイト自体は答えてくれません。外部のAIが勝手にスクレイピングするか、カスタム検索ボックスで頑張ってキーワードを入れるかしかありませんでした。
でも、もしあなたのWebサイトが「はい、牛肉の代わりに大豆ミートはいかがです?」とスラスラ返してくれたら? しかも、これが
AIエージェントでも人間のユーザでも同じように利用できたら? とても便利ですよね。
Microsoftの一手:NLWebでサイトをAIアプリ化
そんな理想を実現しようとするのが
NLWebです。2025年5月のMicrosoft Buildで初披露されました。キーワードは「
エージェンティックWebを当たり前にする基盤技術」――要は、
あなたのサイトを“自然言語で会話・検索可能”にするオープンプロジェクトというわけです。
NLWebは大きく分けて2つの柱があります。
1.
プロトコル仕様自然言語でサイトへ質問するシンプルなREST API(メソッドはほぼ ask 一つ)。結果はJSONで返ってきます。これにより人間もAIも共通の窓口で質問できるんですね。
2.
オープンソース実装Pythonを中心とした参考実装がGitHub(microsoft/NLWeb)で公開。既存のベクターデータベース(Qdrant、Milvus、Snowflakeなど)やLLM(OpenAI GPT、Anthropic Claude、Google Gemini等)と連携する“コネクタ”が揃っています。自サイトの構造化データを取り込んで、ベクター検索 + LLM応答の仕組みをサクッと導入可能。
「これ、本当に難しくないの?」と疑問が浮かぶかもしれません。しかし基本的には、サイト内にすでにある
Schema.orgのマークアップやRSSフィードなどをそのまま取り込む構造になっているんです。*
「Schema.orgなんてSEO目的に昔ちょっと書いただけ…」――それが、AIによる高度な応答に役立つ宝の山になります。わざわざ新規データを手作業でマークアップする必要はありません。そこがNLWebの“敷居の低さ”でもあり、人気の理由のひとつです。
なぜAIエンジニアにとって魅力的なのか
1. 既存のデータ資産をフル活用
企業サイトで頑張って整備したメタデータ(Schema.orgやJSON-LD、RSSなど)、これらがそのままNLWebのインプットとして機能します。「いまある資産を活かせる」って、経営陣への説明もしやすいですよね。新しい仕組みを導入するたびにデータ形式を一から作り直す手間が減るのはありがたい。
2. ベクター検索 + LLMで高度なQ&A
NLWebは、サイトのデータをベクターデータベースに取り込み、ユーザーの質問に対して意味検索を行います。キーワード一致ではなく「問い合わせの意図に近い情報」を引っ張ってきてくれます。加えてLLMで自然文の回答を生成するので、回答はコンテキスト豊富でわかりやすい。「単純に記事のタイトルを返すだけ」じゃない、一段上のインテリジェンスが得られるわけですね。
3. オープンなプロトコル「MCP」へのネイティブ対応
「MCP (Model Context Protocol)」をご存じですか? これはAnthropicが2024年末に提唱した、LLMと外部データソースをつなぐオープン標準です。NLWebはMCPサーバとして動作し、外部エージェントから直接質問を受け付けられます。これがどれほど便利かというと…たとえばChatGPTやAnthropic Claudeといったエージェントが、自サイトに置いたNLWebサーバをMCP経由でリアルタイムに叩く、そんな未来が見えてきます。
「AIエンジニア目線でいうと、MCP対応だと後々の拡張がしやすい」のが最大の利点です。いろんなベンダーのLLMやエージェントがMCPをサポートし始めているため、1回NLWebをセットアップしておけば、将来的に多くのAIサービスとの“相互運用”が期待できます。
4. 自社内だけのプライベート運用もOK
「公開サイトじゃなくて、社内用ドキュメントや商品DBに対して会話検索したい」というケースもありますよね。NLWebならオンプレ環境に構築して、社内限定のAI Q&Aポータルとして使えます。IT部門がサーバを運用し、LLMもオンプレ/クラウドどちらでも接続可能。セキュリティポリシーに合わせて自由に構成できるのは魅力的でしょう。データを外部に出さずに済むので機密性が保たれます。
具体的な仕組み:質問から応答まで
1. ユーザー or AIエージェントが“ask”メソッドに質問送信例:「子連れに優しいイタリアンレストラン、近所にある?」(自然言語そのまま)
2. NLWebサーバがベクターデータベースに対してsemantic検索- サイト内にあるレストラン情報を埋め込みベクトルで検索し、関連度の高い情報(店舗名、レビュー、位置情報など)をまとめる。
3. LLMへコンテキスト投入- 取り出したレストラン情報をプロンプトとしてLLMに渡す。LLMは外部知識(地図や時間情報など)を補完して回答候補を生成。
4. 回答をJSON(Schema.org形式など)で返却- 「〇〇レストランは家族連れに人気があります。評価は4.5で…」といった文章+住所や評価スコアなどの構造化項目を含む。
- 人間が読むときは、これをNLWebのフロントUIでチャット風に表示できます。AIエージェントならJSONを直接解析できます。
この流れによって、「なんかキーワード検索しかできなかった」サイトが対話型のインテリジェントサービスへ早変わりするわけです。しかも既存のメタデータを活かしているので、比較的精度も高い応答が期待できます。
MCPやA2Aほか「AI対応ウェブ標準」の全体像
MCP(Model Context Protocol)とは?
先ほど少し触れたとおり、MCPは「LLMが外部のデータやアプリにアクセスするための共通インターフェース」です。Anthropic発祥ですが、いまやOpenAIやMicrosoft、Googleなど主要プレイヤーがこぞって取り入れはじめています。ポイントは「AI → データ」の問い合わせを標準化することで、いちいちカスタムAPIや秘密のプラグインを作らなくても済む点です。
NLWebはそのMCPをネイティブに話せる構造なので、もし自作のエージェントで「このサイトの情報が欲しい」と思ったら、NLWebが立てているMCPエンドポイントへaskするだけでOK。AIエンジニア的には「HTTP + JSON + 自然言語質問」というシンプルな世界で、いろいろな連携が実現できるようになります。
Agent2Agent (A2A)とは?
こちらは「AIエージェント同士がタスクを分担・調整し合うためのプロトコル」をGoogleが提唱しています。NLWebやMCPが「サイト ↔ AIエージェント」にフォーカスしているのに対し、A2Aは「AIエージェント ↔ AIエージェント」でのコラボレーションを標準化。
例えば、旅行プランを立てるエージェントが会計管理エージェントに「今の予算残はいくら?」と相談するとか、一つの複雑タスクを複数のAIが手分けして進めるシナリオですね。A2Aはタスク管理や状態更新といった要素がしっかり決められており、これから多エージェントの世界が広がるときには重要になりそうな仕組みです。
LLMs.txtの話も少し
最後にもうひとつ、LLMs.txtという取り組みも耳に入れておきましょう。これは「ウェブ運営者が自サイトのデータをどこまでAIに使っていいか(学習に使うのはOKか、要約はどうか、など)」を明示するためのガイドラインです。ロボットにクロール範囲を示すrobots.txtのLLM版ですね。ただしこれは「データ利用ポリシー」の話であって、リアルタイムにやり取りするNLWebやA2Aとは少し別のレイヤーです。「AIスクレイピングをどう制御するか」という観点なので、“静的な意思表示”の仕組みともいえます。
実際の導入事例と盛り上がり
- TripadvisorやAllrecipesなどの旅行・レシピ系サイトが先行導入。「曖昧な質問にも答えてくれるのが新鮮だ」という声が上がっていて、「子連れでも楽しめる観光地は?」のようなコンテキスト重視の問い合わせに対して豊富な回答を返せるようになりつつあるそうです。
- O’Reilly MediaやShopify、Eventbriteなど多種多様なサービス企業が名を連ねる。O’ReillyのCTOは「検索エンジン対策用に整備してきたメタデータが、社内AIを強化するリソースにもなる」と語っています。まさに二度おいしい状態。
- ベクターデータベース企業(Milvus、Qdrant、Snowflakeなど)やデータクラウド勢も関与。NLWebのベクター検索部分をスムーズにつなぐコネクタの開発を進めています。
GitHubのmicrosoft/NLWebリポジトリは公開後数日で数千のStarが付くなど、オープンソースコミュニティも盛り上がりを見せています。コミッターも社外から参画しており、バグ修正や新機能提案が活発とのこと。2025年内~翌年にかけて、さらに導入事例が増える見込みです。
ここからどう動く?今がAIエンジニアのチャンス
未来のWebが「会話できる世界」になるのはそう遠くなさそうです。AIエンジニアとしては、早めにNLWebやMCPの使い方を理解しておくと、プロジェクトのアーキテクチャ設計で優位に立てるかもしれません。
- 自社サイトを試験的にNLWebで会話化まずは限定公開でもOK。内部ドキュメントにSchema.org風のメタデータをつけて、ベクターストア+LLM連携で試してみましょう。
- MCP対応エージェントのPoC(Proof of Concept)MCPを使って自社のCRMや在庫DBにつないでみると、チャットUIから「今の在庫残り個数は?」と聞いたらリアルに返答してくれる。ワクワクしませんか?
- セキュリティや倫理面にも注意新しい技術は便利さと同時にリスクも伴います。内部データをAIモデルに送る前に、機密レベルやアクセス制御を確認しましょう。
標準化の行方
Microsoft、Google、Anthropicなどが同時多発的に「AI時代のウェブ標準」を掲げている状況です。いずれはW3Cや他の中立機関で仕様策定が進むかもしれません。とはいえ現時点で競合というよりは、相互補完*の形で進んでいる印象が強いですね。
例えば、-
-
NLWeb:ウェブサイトを会話インターフェース化(HTMLのようなポジション)
-
MCP:AI ↔ ツール・データ接続の標準(HTTPに近いイメージ)
-
A2A:エージェント同士のオーケストレーション(マイクロサービス間通信のようなイメージ)
こう並べると役割が意外とカチッと分かれているのがわかります。
まとめ:会話可能なWebへの扉を開くNLWeb
「ウェブサイトにAI搭載」は数年前から言われてきましたが、
NLWebの登場で一気に実現しやすくなった印象があります。しかも
オープンソースかつオープン標準指向なので、独自の囲い込みではなく、みんなで育てられるプロジェクトです。
AIエンジニアにとっては「自分のサイトを会話化して、LLMから直接問い合わせが来るようにする」なんて仕組み、今すぐ試してみたくなりませんか? 特にベクターデータベース周りやメタデータの扱いが好きな方は、NLWebプロジェクトをクローンして遊んでみると、新しい発見があるかもしれません。
何より、最先端の技術を手元で動かしながら、業界標準づくりの一端を担えるかもしれない――そう考えるとワクワクしてきませんか?
参考リンク・出典
- Microsoft公式ブログ “Introducing NLWeb” (2025/5/19)
- GitHub:
microsoft/NLWeb
- Anthropic公式: Model Context Protocol (MCP)発表ページ (2024/11)
- Google Developers Blog: Agent2Agent(A2A)概要 (2025/4)
- VentureBeat, Forbes, TechCrunch各社の業界分析記事
NoteBook LMで作った音声版を作ってみましたので宜しければお試しください。
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