皆さんは、普段プログラム開発を行うときにどのようなツールを使っていますでしょうか。最近ではGitHub CopilotをはじめとしたAIコード生成ツールが身近になり、IDEにLLM(大規模言語モデル)を接続してコード補完や自動修正をしているエンジニアの方も多いのではないでしょうか。こうした「AIコーディング」は、私たち開発者にとって作業効率を大幅に高める手段として、ほとんどの方が何らかの形で利用していると思います。
しかし、AIを使ったプログラム開発にはまだ課題も残っています。たとえば「セッションを切り替えると、せっかくの文脈が失われてしまう」「外部のデータベースやブラウザを操作したいときに、AI側から直接アクセスする仕組みがない」「エラーが出たときにログを取りに行ってもらえたら便利なのに……」など、さまざまな要望が出てくるのではないでしょうか。
ここで登場するのが
MCP(Model Context Protocol)という仕組みです。MCPとは、AIモデル(エージェント)と外部サービスの間をつないで、AIに新しい能力を拡張的に付与するためのプロトコルです。これによって、AIが単なるテキスト入出力だけではなく、データベースへのクエリ実行やブラウザ操作、ドキュメントの参照など、多彩なアクションを取れるようになります。
本記事では、そんなMCPを導入するメリットや、代表的なMCPサーバーの一覧とその特徴をまとめました。特にAI CodeEditorとして人気の「Cursor」にMCPを繋ぐことで得られる効率化効果を中心に解説していきます。
目次
- MCPとは
- Cursor(AI CodeEditor)に繋げると何がいいのか?
- 使えるMCP一覧と解説
3.1 Memory MCP
3.2 Sequential Thinking MCP
3.3 PostgreSQL MCP
3.4 Microsoft Playwright MCP
3.5 Puppeteer MCP
3.7 Brave Search MCP
3.8 Firecrawl MCP
3.9 GitHub MCP
- まとめ
1. MCPとは
まずは「MCP(Model Context Protocol)とは何か」を簡単にご紹介いたします。これは大規模言語モデル(LLM)やAIエージェントと、外部システムやツール群を接続するプロトコルのことで、AIに新しい機能をプラグイン感覚で追加できる仕組みだとイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。
通常のAIは、与えられたテキストをもとに応答を返すだけで、外部リソースへ直接アクセスする手段を持ちません。しかし、MCPを通じて「ここにデータベースを用意するからクエリを実行してみて」「このブラウザを操作してスクリーンショットを撮ってきて」といった指示を行えるようになるのです。いわば、AIが人間の代わりに外部サービスを操作するための「呼び出し口」や「コネクタ」を提供しているわけですね。
MCPサーバーには、データベース用やブラウザ操作用、ドキュメント参照用など、さまざまな種類があります。本記事でご紹介するMCPは、その中でも特に人気が高く、開発者コミュニティからも高評価を得ているものを厳選しています。どんな使い方が可能なのか、これから順を追って見ていきましょう。
2. Cursor(AI CodeEditor)に繋げると何がいいのか?
最近話題になっているAI CodeEditorの「Cursor」。これはVisual Studio CodeライクなエディタUIを持ちつつ、AIとの対話を強く意識した作りになっているため、自然言語による操作指示やコード補完、リファクタリング提案などが得意です。実際に試された方もいらっしゃるかもしれませんが、コード生成と編集・修正を同じウィンドウ上でスムーズに行える点は大きな魅力ですね。
しかし、Cursor自体には「外部サービスを直接操作する機能」は標準では組み込まれていません。そこをMCPとの連携で補ってあげると、CursorによるAIコーディングがさらに強化されます。たとえば以下のような場面でメリットを感じられるでしょう。
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外部データの取り込みが簡単
AIに対して「PostgreSQL MCP経由でこのテーブルのカラム構成を教えて」と頼むと、その場でスキーマ情報を取得してくれます。するとSQLクエリの提案も正確になり、トークンの浪費も抑えられます。
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長期的文脈を維持できる
プロジェクトが長引くにつれて決定事項や仕様変更が増え、忘れてしまうこともあるでしょう。Memory MCPを使えば、過去のセッションやマークダウンファイルを保持したまま開発を進められます。
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複雑タスクを段階的に処理
Sequential Thinking MCPがあれば、大きなタスクをサブタスクに分割しつつ、ステップを踏んで正確にコード生成を行ってくれます。Cursorが提示する修正ポイントをさらに自動化して検証してくれるイメージです。
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ブラウザ操作やスクレイピングをまとめて依頼
「Puppeteer MCP」や「Microsoft Playwright MCP」を使うと、Cursor上の対話で「ページにアクセスしてフォームに入力し、送信後のレスポンスを確認して」と指示するだけで、AIが実際のブラウザ操作を実行して結果を返してくれます。
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GitHubリポジトリの操作を自動化
GitHub MCPを入れておけば、Cursorのチャット画面で「新しいブランチを作成してIssue #1234に対応する変更をコミットし、Pull Requestをオープンしておいて」といった要望を伝えるだけで、裏側で自動的に実行されます。
このように、AI CodeEditorとMCPの組み合わせは「AIが外部サービスを操作してくれる」環境を整備するうえで非常に有効です。普段行っている手動の手順や、わざわざGoogle検索などで行う情報収集を、AIに代行させる道が開けます。ひとたび使いこなせば、大幅な時間短縮や作業効率アップが期待できるでしょう。
3. 使えるMCP一覧と解説
ここからは、コーディングにおいて実際に活用できるMCPサーバーを一覧形式でご紹介します。MCPは数多く存在しますが、その中でも注目度の高いもの、そして機能がわかりやすいものをピックアップしました。特に、AIコーディングと相性が良いとされるサーバーを中心にまとめていますので、ぜひ導入を検討してみてください。
概要
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特徴: 対話履歴や情報を長期的に保持する専用サーバー
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利用シーン: セッションを跨いで文脈を維持したいプロジェクト
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メリット: エージェントが過去の指示や開発履歴を忘れずにコードを出力
AIとのやり取りでよくあるフラストレーションとして、「セッションをリセットすると、前に話していた内容が全部消えてしまう」というものが挙げられますよね。長く続く開発プロジェクトでは、仕様変更や命名規則、これまでの障害対応など、いろいろな記録を参照したい場面も多いはずです。
Memory MCPを導入すると、AIはローカルナレッジグラフやMarkdownファイルなどに情報を蓄積し、セッションをまたいでもそれを参照できるようになります。たとえば「前回決定したクラス名の命名ルールをもう一度確認して」と言えば、AIがMemory MCPに問い合わせて記録を引っ張ってきます。これにより、やり取りの継続性がぐっと高まり、いちいち過去の経緯を説明し直す手間がなくなります。
特に大規模プロジェクトや、複数人が共同で開発を進める場面では、Memory MCPは強力なアシスタントとなるでしょう。Anthropic社が提供するリファレンス実装でも実績があり、既に多くの開発者が「プロンプトやワークフロー管理に使っている」という評判です。
概要
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特徴: チェイン・オブ・ソート(逐次思考)による複雑タスク分解
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利用シーン: 大きな問題を段階的に解決したいアルゴリズム開発・ロジック実装
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メリット: サブタスクごとに推論を進めるため、正確性が向上しやすい
コード生成をAIに任せるとき、単純なCRUD処理程度ならあまり困らないかもしれません。しかし、ビジネスロジックが複雑になったり、アルゴリズムのステップ数が多かったりすると、一度に全体を設計するのは難しくなります。そこに役立つのが
Sequential Thinking MCPです。
Sequential Thinking MCPは「問題を小さく切り分け、段階的に考えながら解を導く」という、いわゆる逐次思考のプロセスをAIにサポートさせる仕組みを提供します。具体的には、次のようなフローが自動化されます。
- タスクの全体像を分析し、複数のサブタスクに分割。
- サブタスクごとにコードを書き、テストや検証を行う。
- エラーや不足があれば修正しながら、次のステップへ進む。
- 最終的にすべてのサブタスクを統合し、完成版を得る。
これにより、一気に大きなコードを作成して失敗するリスクを抑えられます。また、思考プロセスの可視化(チェイン・オブ・ソート)をAIが行うため、途中で論理的な破綻があった場合も発見しやすいです。結果として、より正確でミスの少ないコード生成が期待できます。
概要
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特徴: Postgresデータベースへの読み取り専用インターフェースを提供
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利用シーン: SQLクエリの自動生成やスキーマの把握、テストデータ確認など
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メリット: 書き込み禁止のため、本番DBでも安心して参照可能
データベースを使うアプリケーション開発でAIを活用する場合、「DBのスキーマを知らないと正しいクエリが書けない」という壁がありますよね。手動でスキーマ情報をAIに流し込む方法もありますが、それでは手間がかかりますし、こまめに変更があった際にも更新を忘れがちです。
PostgreSQL MCPは、AIがPostgresに対して読み取り専用クエリを発行できるようにするサーバーです。スキーマを取得したり、テストデータをざっと見たりして「このテーブルにはどんなカラムがあるか」「どのようなインデックスが張られているか」などをAIが直接確認できます。これによりSQL補完や最適化提案を正確に行えるようになるでしょう。
さらに書き込み(UPDATE/DELETE/INSERTなど)がデフォルトで禁止されているため、本番環境のDBに接続してもデータが壊れるリスクがありません。開発者としては「読み込み専用の安全な窓口がある」という安心感を持って活用できる点が嬉しいポイントです。
概要
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特徴: ヘッドレスChromeをAI経由で操作できるブラウザ自動化サーバー
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利用シーン: テストやスクレイピング、フォーム入力などの反復操作を自動化
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メリット: JavaScriptで動的に生成されるページにも対応し、手動作業を大幅に削減
ウェブ上のテストや定期的なデータ収集作業を自動化したいときに、多くの開発者がPuppeteerを使用します。通常であればNode.js経由でスクリプトを書く必要がありますが、
Puppeteer MCPを導入すれば、AIが直接Puppeteerを呼び出してブラウザ操作を行ってくれるようになります。
具体的な使い方としては、「あるURLを開いてフォームを入力して送信し、結果ページをスクリーンショットに撮って保存する」という一連の流れをAIに頼むイメージです。さらに動的サイトであっても、PuppeteerならJavaScript実行後のDOMを取得できるため、単純なHTTPリクエストライブラリでは対応しづらい場面でも役立ちます。
テスト自動化の観点でも「複数環境でのUIチェックを一気に行う」「入力値のパターンを変えてサーバーからのレスポンスを検証する」などが簡単になるでしょう。手動で繰り返していた面倒なブラウザ操作が減るため、開発効率を高めるうえで強い味方となってくれるはずです。
概要
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特徴: Microsoft Playwrightを用いてブラウザ操作をAIが実行できるMCPサーバー
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利用シーン: 表示レイアウトの変化に強く、安定したテストやスクレイピングを行いたい場合
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メリット: スクリーンショット解析に頼らず、アクセシビリティツリーを活用してページ要素を正確に把握
Puppeteerと同様にブラウザ自動化を目的としたツールとして、近年注目度を高めているのが
Microsoft Playwrightです。PlaywrightはもともとPuppeteerの開発に関わっていたメンバーが中心となって作られたプロジェクトで、ChromiumだけでなくFirefoxやWebKitといった複数のブラウザエンジンをサポートし、高速かつ安定した操作を実現します。
そして、このPlaywrightをAIが直接利用できるようにしたのが
Microsoft Playwright MCPです。大きな特徴の一つは「表示上のスクリーンショットを解析するのではなく、アクセシビリティツリーを活用する」点で、これにより要素の位置や種類を正確に把握し、レイアウト変化が起こっても操作が崩れにくいというメリットがあります。
ほかにも、JavaScriptによる動的コンテンツへの対応、アクセス制御(認証付きページへのログインシナリオなど)、並列でのテスト実行など、Playwrightが持つ強力な機能をAIエージェントから利用できます。例えばCursorとPlaywright MCPを連携させると、「このページにアクセスしてボタンをクリックし、数秒待ってから表示されるメッセージを確認して」と自然言語で指示するだけで、ブラウザ上での操作を完了できます。より安定したブラウザ自動化を求める方には、Playwright MCPの導入が有力な選択肢となるでしょう。
概要
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特徴: Brave Search APIを利用したウェブ検索サーバー
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利用シーン: プライバシーを重視しつつ、最新情報をAIに取り込ませたい場合
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メリット: ユーザー追跡のない検索でドキュメントやエラー情報を素早く収集
AIにコーディングを任せるときでも、しばしば「最新バージョンのライブラリ情報はどうなっているのか」「このエラーの解決策はどのフォーラムに載っているのか」といった調べものが必要になります。そんなときに、
Brave Search MCPがあればAIはBrave Search経由でウェブ検索を行い、必要な情報を持ってきて要約してくれます。
Braveの検索エンジンはプライバシーを重視しており、ユーザーデータを追跡しない方針を掲げています。個人情報の取り扱いが気になるプロジェクトや企業環境でも利用しやすい点が注目されています。検索結果の精度も近年向上しており、ウェブ上の開発関連ドキュメントを探す用途には十分実用的です。
特にCursorや他のAIツールと組み合わせれば、エディタ内で「このエラーについてネット上の解決策を検索してまとめて」と頼むだけで、最新情報を瞬時に引っ張り出してきてくれるでしょう。開発速度を一段と高めるうえで、覚えておきたいMCPの一つです。
概要
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特徴: OSSのFirecrawlサービスと統合されたウェブスクレイピング&クローリング専用サーバー
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利用シーン: 大規模サイトからのデータ収集、サイトマップ生成、構造化データ一括取得など
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メリット: JavaScriptレンダリングにも対応し、多様な形式で出力が可能
もし皆さんがウェブスクレイピングを行う場面に遭遇したとき、静的なHTMLだけならともかく、JavaScriptで動的に生成されるページや、複数階層に渡ってリンクを辿りながら大量の情報を取得したい場合はどうでしょうか。通常のスクレイピングツールだけでは不便に感じる場面も多いですよね。
Firecrawl MCPは、強力なウェブスクレイピングやクローリング機能をAIに提供するサーバーで、OSSのFirecrawlサービスと統合されている点が特徴です。JavaScriptレンダリングに対応しているため、動的ページにも対応できますし、サイト全体をクロールして構造化データをまとめて取得したり、サイトマップを自動生成したりもできます。
MendableAI社が提供している公式実装ということで信頼性も高く、GitHub上で2.1k以上のスターを得ている人気のプロジェクトです。たとえば、Cursorや他のAIフロントエンドから「特定のキーワードで検索し、上位50件のサイトを順番にクロールして、そのコンテンツをMarkdown形式で取りまとめて」という大掛かりなタスクを頼む、といったイメージが現実的に実行できます。
概要
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特徴: GitHubのリポジトリ操作をAI経由で一括管理できるサーバー
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利用シーン: チャットベースでPull Request作成やIssue管理を自動化したい場合
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メリット: 「このリポジトリのREADMEを開いて」「PRを作成して」など、自然言語指示だけで操作可能
最後にご紹介するのは、
GitHub MCPです。これはその名の通り、AIエージェントとGitHubを直結させるサーバーで、リポジトリの閲覧・更新から、ブランチの作成、Pull Requestのオープン、Issueの管理まで、幅広い操作をチャット上の指示だけで実行できるようにします。
コードレビューやバグ修正をするとき、通常であればターミナルやGitHubのWeb UIを行き来しながら作業しますが、GitHub MCPがあれば「バグ修正用のブランチを切って、main.goの該当箇所を直してコミットし、PRを作ってレビューアに通知して」といった複数ステップをAIがまとめて代行してくれます。さらにIssueへのコメントやクローズも自動化可能です。
チーム開発ではGitHub MCPが導入されると、コミュニケーションコストと手作業が減り、よりスピーディーにリリースサイクルを回せるようになるでしょう。すでに多くの開発者が「PR作成やチケット更新が楽になった」と評価しており、AIとの相性が非常に良いMCPとして定番化しつつあります。
4. まとめ
皆さんの開発現場では、どのような機能や使い方が必要でしょうか。もし「長期にわたってプロジェクトの背景を記憶してほしい」という場合はMemory MCPが最適かもしれませんし、「ブラウザを自動操作して回帰テストをしてほしい」というニーズがあればPuppeteer MCPやMicrosoft Playwright MCPが有力でしょう。あるいは「プロジェクト全体をGitHub上で管理しているので、IssueやPRをAIに任せたい」と思えばGitHub MCPの導入が考えられます。
最初からすべてのMCPを導入するのは大変かもしれませんが、まずはプロジェクトのニーズや課題感に合わせて1~2種類のMCPを試してみるのがおすすめです。CursorなどのAIコーディング環境と連携すれば、日々の作業がどれだけ変わるかを体感できるでしょう。
本記事が、皆さんのAIコーディング体験を「もう一段階ブースト」するためのヒントになれば幸いです。ぜひ新しいMCPサーバーの活用を試してみてください。